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大阪地方裁判所堺支部 昭和63年(ワ)1264号 判決 1992年3月31日

主文

一、被告は原告等に対し別紙物件目録記載の土地(以下、本件土地という。)に関する別紙登記目録一ないし三記載の各登記(以下、本件登記一ないし三という。)の抹消登記手続をせよ。

二、訴訟費用は全部被告の負担とする。

事実及び理由

第一、原告等の請求

主文同旨。

第二、事案の概要

一、請求原因

1. 原告等は本件土地を持分各三分の一宛で共有している。

2. 被告は本件土地につき本件登記一ないし三を有している。

二、抗弁

(本件登記一について。)

1. 原告一ないし三は被告との間で、昭和四八年一〇月二九日本件土地につき別紙契約目録一記載の契約(以下、本件契約一という。)をし、その旨の本件登記一をした。

2. 被告は右同日頃原告一および訴外重田伸夫(以下、訴外重田という。)を連帯保証人として、訴外近藤英明(以下、訴外近藤という。)との間で別紙契約目録二記載の契約(以下、本件契約二、本件契約二に基づく債務を本件債務甲という。)を締結して金二〇〇〇万円を貸し渡した。

3. 原告一、二、訴外近藤および訴外重田は被告との間で昭和四九年三月三〇日、公正証書により別紙契約目録三記載の契約(以下、本件契約三、本件契約三に基づく債務を本件債務乙という。)を締結するとともに、本件契約一の債務者を、訴外近藤のほか、原告一、二および訴外重田に追加変更することに合意した。

右債務者の追加変更は未登記であるが、当事者間では効力を生じると解すべきである。

(本件登記二、三について。)

4. 原告等は被告との間で、昭和四八年一〇月二九日本件土地につき代物弁済の予約をするとともに、別紙登記目録三2ないし6記載の内容の地上権設定予約(以上を、本件各予約という。)をして、本件登記二、三をした。

本件各予約はいずれも担保目的であって被担保債権の従たる権利であるから、本件契約一の根抵当権と運命を共にし、独自に消滅すべきものではない。

三、再抗弁および原告等の主張

1. 被告は株式会社であるから、消費貸借請求権は五年の商事時効にかかるところ、原告等は本件口頭弁論期日において、本件契約一に関する被担保債権の消滅時効を援用した。

2. 抗弁3の事実について、仮に認められるとしても、根抵当権の債務者の変更に関する登記は効力要件であるから、本件契約一の債務者は訴外近藤のみである。

3. 被告と訴外近藤との取引は遅くとも昭和四九年一一月頃には終了したので、本件契約一の被担保債権は右当時残存しているものに限定されることが確定した。従って、仮に本件契約三が成立しているとしても、訴外近藤の本件債務甲および乙はいずれも弁済期である昭和四九年四月九日から五年の経過により時効消滅した。

四、再々抗弁

1. 被告は、訴外近藤の本件債務乙について、昭和四九年一一月頃同人所有の動産を差押えて時効を中断した。

2. 被告は、原告一、二の本件債務乙について、昭和四九年一一月頃右原告等所有の各動産を差押えて時効を中断した。右差押の効力は今も続いている。

五、当事者間に争いのない事実

1. 請求原因1、2の事実

2. 抗弁1の事実のうち、極度額を除くその余の事実

3. 抗弁4の事実

4. 再抗弁および原告等の主張、1記載の事実

5. 同3の事実のうち、本件契約一の被担保債権は昭和四九年一一月頃取引終了により確定したこと、残存していた本件債務甲が時効消滅したこと。

六、主たる争点

1. 抗弁1、2の各契約は成立したか。原告等は本件契約一締結の際に極度額一〇〇〇万円の限度で承諾していたに過ぎないか。

2. 抗弁3の各合意は成立したか。根抵当権の債務者の変更に関する登記は効力要件か。

3. 被告は訴外近藤の本件債務乙につき時効を中断したか。

第三、理由

一、請求原因事実はいずれも当事者間に争いがない。

二、1. 抗弁1の事実は極度額を除いて当事者間に争いがない。

2. 証拠(甲一、乙一、二、証人重田伸夫、原告一および被告代表者(但し、いずれも後期認定に反する部分を除く。以下、同じ。))によると、現被告代表者は昭和四八年一〇月二九日被告の代理人として、原告一、訴外近藤、訴外重田を司法書士事務所に集め、同所において原告一および訴外重田を連帯保証人として、訴外近藤に対し金二〇〇〇万円を貸し渡し、担保として原告一ないし三(原告二、三については、原告一を代理人として)との間で本件土地につき本件登記一、2ないし5記載の内容の本件契約一をして訴外近藤に対し二〇〇〇万円を貸し渡したこと、原告一はその場で訴外近藤から内金一〇〇〇万円を受け取って、金額五〇〇万円の原告一振出の手形二通を被告に交付したことが認められる。原告一は貸付額と連帯保証したことを争い、原告等は一〇〇〇万円の限度で根抵当権設定契約をした旨主張するが、右主張に沿う原告一の供述部分は信用できず、本件全証拠を検討しても右認定を覆すに足りない。従って抗弁1、2の事実は認められる。

3. 証拠(乙四、五、証人重田、原告一、被告代表者)によると、原告一、二、訴外近藤および訴外重田は本件契約一、二の際に、利息等の支払いを遅滞した場合は、公証人に依頼し、被告において任意に選定した代理人により本件契約三を締結することを予め承諾し、これに必要な委任状等を被告に交付していたもので、被告は、訴外近藤が本件債務甲の利息の支払いを遅滞したので、昭和四九年三月三〇日右原告等四名の代理人訴外土屋定行と共に公証役場に赴き、公証人に依頼して右委任状等を使用して公正証書により本件契約三を締結したことが認められる。しかしながら、本件全証拠を総合しても、原告等が、本件契約一の債務者を追加変更することも合意した旨の被告の抗弁事実を認めるに足りる証拠はない(仮に、被告において右合意をさせる意思があったなら、右変更も含めた内容の公正証書を作成させるのが通常であるし、原告三をも変更契約の当事者とするのが通常であると認められ、更に変更登記に必要な書類を用意させたはずである。)。従って、本件契約一の債務者は訴外近藤のみであると認められ、債務者の追加変更を前提とする被告の再々抗弁はその余につき判断するまでもなく理由がない。

4. 抗弁4の事実は当事者間に争いがない。

三、1. 再抗弁および原告等の主張1の事実および、同3の事実のうち、本件契約一の被担保債権は昭和四九年一一月頃取引終了により少なくとも本件債務甲が残存した状態で確定したこと、右のうち本件債務甲が弁済期から五年の経過により時効消滅したことは当事者間に争いがない。

2. 本件債務乙につき、弁済期である昭和四九年四月九日から五年が経過したことは明らかである。

3. 本件全証拠を検討しても、被告が訴外近藤に対する本件債務乙について、動産差押により時効を中断した事実を認めるに足りる証拠がない。

4. 従って、訴外近藤に関する本件債務乙も弁済期である昭和四九年四月九日から五年の経過により、時効消滅したことが認められる。

四、よって、原告等はいずれも被告に対し、被担保債権が時効消滅したことを理由に、本件登記一の抹消を請求することができる。また、本件各予約は担保目的であって、本件契約一の被担保債権と運命を共にすべきものであるから、原告等は本件登記二、三の抹消も請求できる。

(別紙) 物件目録

一 大阪府堺市北瓦町二丁八〇番の二

宅地 一〇六・七一平方メートル

登記目録

一 昭和四八年一一月二二日受付第九五一一九号根抵当権設定登記

1 原因 昭和四八年一〇月二九日設定

2 極度額 金二〇〇〇万円

3 債権の範囲 継続的金銭消費貸借取引手形貸付取引・手形割引取引・手形債権・小切手債権

4 債務者 訴外近藤英明

5 根抵当権者 被告

二 昭和四八年一一月二二日受付第九五一二〇号所有権移転請求権仮登記

1 原因 昭和四八年一〇月二九日代物弁済予約

2 権利者 被告

三 昭和四八年一一月二二日受付第九五一二一号地上権設定仮登記

1 原因 昭和四八年一〇月二九日地上権設定予約

2 目的 木造建物所有

3 存続期間 二〇年

4 地代 一平方メートルにつき月金一〇〇円

5 支払期 毎月末日

6 権利者 被告

契約目録

一 抵当権設定契約

1 契約年月日 昭和四八年一〇月二九日

2 極度額 二〇〇〇万円

3 債権の範囲 継続的金銭消費貸借取引手形貸付取引・手形割引取引・手形債権・小切手債権

4 根抵当権者 被告

5 債務者 訴外近藤英明

二 金銭消費貸借契約

1 貸付年月日 昭和四八年一〇月二九日

2 債権者 被告

3 債務者 訴外近藤英明

4 金額 二〇〇〇万円

5 弁済期 昭和四九年四月九日

6 利息 日歩八銭

7 遅延損害金 日歩一六銭

三 債務承認並びにその履行に関する契約

1 契約年月日 昭和四九年三月三〇日

2 債務の内容 昭和四八年一〇月二九日借用の金二〇〇〇万円

3 債権者 被告

4 連帯債務者 訴外近藤英明 訴外重田伸夫 原告一 原告二

5 弁済期 昭和四九年四月九日

6 利息 年一割五分

7 遅延損害金 日歩八銭二厘

8 利息の支払い方法 元金と同時に一括して支払う。

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